内村鑑三 誤解と疑察

誤解と疑察
明治33930  『聖書之研究』1号「雑感」  署名なし
 
誤解に誤解に誤解に誤解、国は国を誤解し、政府は政府を誤解し、父は子を誤解し子は父を誤解し、兄弟相誤解し、友人相誤解し、此美はしき宇宙に棲息しながら誤解の暗霧の中に彷徨して憂愁の中に月日を送る、世にもし誤解てふものなかりせば此世は如何に好〔よ〕き世なるぞかし。
疑察に疑察に疑察に疑察、己れの心を以て他人を測り、他の欠点を挙げて自己の潔白を装はんと欲す、疑鬼は国家を亡し、社界を毒し、友人を離間し、家庭を紊乱し、楽園をして地獄たらしむるの力を有す、軍隊恐るゝに足らず、疾病恐るゝに足らず、恐るべきは実に吾人の心に疑察念を醸〔かも〕す疑鬼なり、若し此世より全然疑鬼を排除するを得んか、其清浄は期して俟〔ま〕つべきなり、
誤解は弁明を以て解くるものに非ず、疑察は疑察を以て応ずべきものに非ず、誤解は行為を以てのみ解き得るもの、疑察は信任を以てのみ応ずべきものなり、誤解と疑察とを以て苦しむ日本の社会は勇敢なる行為と確乎たる自信を要するや大なり。
篤〔あつ〕く神を信ずるが故に人の誤解する処となりて懼〔おそ〕れず、人に善性の存するを信ずるが故に其悪を視て彼を捨てず、誤解を正すに正行を以てし、疑察に酬〔むくゆ〕るに信任を以てす、神を信じ基督を信じて吾人は容易に誤解と疑察との夭霧〔ようむ〕を排するを得るなり。
誤解と疑察  1900(明治33)9
 
人が人を理解するなんて出来無いのに、一言聴いただけでこうに違いないと決めつける早勝手が大きな争いを生み、家庭は崩壊し、企業は倒産する。夫婦は離婚して子供は苦界に身を投ずる。友情は一夜にして消え去る。あの時はっきりと言っておけば、聴いておけば、の後悔先に立たず。
 
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